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魅せる手話の使い手

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魅せる手話の使い手

 ある日何気なく手に取った一冊の本が、私を手話パフォーマーの世界へ導いてくれた。

 私の名前はことぷき。現在会社員で働きながら、聴覚障がい者協会の役員と、手話パフォーマンスきいろぐみのデフキャストとして活動している。

 私は聞こえる人間として、聞こえる家族の元に産まれたらしい。けれど私はそのことを覚えてはいない。2歳の頃、高熱にかかった。次第に熱は和らぎ、身体も回復して、いつもの様に元気よく外で遊んでいたらしい。ある日、私は家の前で遊びに夢中になっていた。車に乗っていた母が帰宅し、それに気づかない私に、母はクラクションを鳴らした。けれど私はまったく気づかずに遊び続けていたらしい。両親はこの事に疑問を持ち、私を病院に連れて行った。医者から「聴力が無くなっています。きっと以前の高熱が原因でしょう。」と診断されたそうだ。

 私は幼稚部から高等部までろう学校に通っていた。今でこそ手話が言語であることの理解は進んできているものの、当時手話を使うことは学校で強く禁止されていた。使うと手を叩かれることさえあった。将来聴者の社会で生きていく為に、口話を習得することを必要とされた。毎日の口話練習と、キュードスピーチを活用して、段々と家族や友人とコミュニケーションを取ることができるようになった。

 昔から人を楽しませたり、助けたりしたい想いが強かった。小さい頃の将来の夢は、大サーカスのピエロになることであった。言葉が無くとも人を笑顔にすることができる。そんなピエロに憧れていた。しかし、高校を卒業する頃にはその夢もなくなり、専門学校卒業後はふらふらと友達と遊ぶ日々を送った。しかし段々と友達も結婚をしていき、会って遊ぶ機会が減っていった。

 暇を持て余していた25歳のある日、たまたま立ち寄った本屋で、表情や身体で思いきり自分自身を表現をしている団体の本を見つけた。詳しく読んでみると、ろう者と聴者が一緒に歌って踊る活動であった。これが私の初めての「手話パフォーマンスきいろぐみ」との出会いである。歌や踊りで沢山の人々を楽しませることができる。ろうや手話の事を皆に知ってもらうことができる。さらに昔からの夢であった、人を楽しませたり助けたりする事のできる大きなチャンスがここにあった。

 小学校の頃音楽の授業があった。基礎的なリズムを先生に教えてもらったり、ピアノやトライアングルを体験したりした。ある日、私の出身地である青森のねぶた祭に参加した。そこで、大きな太鼓から発せられた力強い音の振動を身体全身で感じた時、音楽への興味がグッと強まった。以前みつけたあの本で輝いていた団体「手話パフォーマンスきいろぐみ」への加入を決心し、デフキャストとして活動をはじめた。

 きいろぐみでは、聴者とろう者が一緒に歌って踊るミュージカルを行う。その為に、まずは歌を手話に変えていく作業が必要である。日本語対応手話を使って歌詞通りに翻訳するのではない。よりろう者が楽しめるように、本当の日本手話を発信できるように、歌詞の意味を聴者に説明してもらい、そのイメージを元にろう者が手話に変換していく。その歌のミュージックと手話のタイミングなどが合うかも確認する。これらの繰り返しによって、聴者とろう者、誰もが感動して心が踊るようなミュージカルを作っていく。

 きいろぐみの活動を通しての一番の学びは、パフォーマンスは自分が楽しむことだけが目的ではなく、お客様を楽しませることが重要であるということである。特に小さめのライブハウスでやるパフォーマンスでは、お客様が目の前にいて、目をキラキラと輝かせて、身体全身で盛り上がる姿を見せてくれる。この瞬間に一番のやりがいを感じる。

 もちろんデフキャストとして難しいこともある。一番はやはり、音楽のリズムを取る事である。基本的なリズムや、聴者と一緒のタイミングで動くことはできる。しかし交互に動いたり、1人でリズムをとると上手くいかないこともある。そのような時は、きいろぐみのキャストが一緒に練習をしてくれてとても助かっている。

 デフキャストとして、これからも日本全国を回って手話の魅力を伝えていきたい。そして一番の目標は、テレビドラマなどで活躍することである。今はほとんどが聴者の芸能人がろう者役を担っているけれど、本当のろう者がろう者役で演じることができたらいいなと思っている。

 ろう者としては、もっともっと手話への理解が進むように活動していきたい。ありがとうとか、おはようとか、子供からお爺さんお婆さんまで、皆が基本的な表現を気軽に使える社会と、お互いを助け合える社会を創っていきたい。

 ろう者のみんなにもメッセージを送りたい。きっとみんなも夢をもっていることだろう。その夢を叶えるために沢山の準備をしていかなければならない。その過程で多くの壁にぶつかって、「私はろうだから無理だ。諦めるしかないんだ。」と思いたくなることもあると思う。けれど自分を信じて目指しきってほしい。行き詰まった時はろうの友達、親、誰でもいいから相談をしてアドバイスをもらおう。そして自分の夢を叶えるために最後まで必死にもがいてほしい。

 聴覚障がいに、悪いイメージや、悲しい気持ち、可哀想などと思わないで欲しい。私たちも聴者の皆の様に社会を創っていく一員である。助け合って一緒に社会を盛り上げていこう。

手話パフォーマンスきいろぐみ
聞こえる人も聞こえない人も、一緒になって、ステージから手話のアートを届けよう。手話パフォーマンスきいろぐみ Since1989

日本手話/日本語字幕付

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